「なぜ?」を深掘りする「哲学対話」でイノベーションを

大人になると、空気を読んだり周囲の目が気になったりして、思ったことをそのまま口に出せなくなるものです。私は、職場には“地雷”が埋まっているように感じていたことがあり、それを踏まないように気にしすぎて、本当に思っていることを言えなくなってしまった経験があります。そんなとき、「哲学対話」に出合いました。

哲学対話とは一言で言うと、疑問や考えを安心して自由に話せる場です。と同時に、参加者どうしで互いの話を聴き合う場でもあります。哲学対話のワークショップに参加したり、友人たちと一緒に哲学対話をしてみたりしたところ、スッキリ感を得られただけでなく、仕事にも生かせる利点があることが分かりました。

そこで今回は、哲学対話について紹介します。

様々な団体や研究者が哲学対話の活動を行なっており、ビジネスの現場に特化した「ビジネス哲学対話」というものもありますが、ここでは私が実際に参加したことのあるワークショップを主催していた梶谷真司氏(東京大学大学院 総合文化研究科 教授)の考えや、友人たちと哲学対話をして感じたことを中心にお伝えします。

「哲学対話」は身近な問いから始まる

哲学対話は、子どもたちの思考力を養う目的から、1970年代にアメリカで始まった「子どものための哲学」に由来するそうです。ここ数年前から日本でも知られるようになり、教育だけでなくビジネスや医療の現場にも取り入れられるようになりました。

「哲学」と聞くと、小難しく堅苦しいイメージをもつ人は多いのではないでしょうか。ですが「哲学対話」には、哲学の専門的な知識はまったく必要ありません。梶谷氏によると、哲学とは「問い、考え、語る」こと。「なぜ働かなくてはいけないのか?」「どれだけお金があれば幸せか?」といった素朴な問いも、哲学のテーマになるのです。

やり方は簡単です。参加者は数人〜十数人のグループに分かれて車座になり、みんなで考えてみたい「問い」を出し合います。どの問いにするかを多数決で決定し、それについて自由に語り合うのです。結論を出す場ではないので、終了時間になったら話が途中でもストップします。

例えば、私が友人たちと行なった哲学対話では、「年賀状、いつやめる?」という問いについて、みんなで考えることになりました。そこから「年賀状を送る人・送らない人の境目は?」→「年賀状は人間関係においてどんなもの?」→「手書きからデジタル化に移行したら、人間関係はどう変わる?」→「今でもつき合いのある友人は小・中・高・大学、どのタイミングで出会った人?」などと、話が展開していきました。

「問い、考え、語る」ための7つのルール

哲学対話は議論やディベートとは異なり、次の7つのルールに基づいて行ないます。それらを守らない参加者がいた場合は、各グループにいるファシリテーターがそれとなく軌道修正します。

「哲学対話」 7つのルール

1.何を言ってもいい
2.人を否定したり茶化したりしない
3.発言せず、ただ聞いているだけでもいい
4.お互いに問いかけることが大切
5.知識ではなく、自分の経験に即して話す
6.話がまとまらなくても、意見が変わってもいい
7.分からなくなってもいい

最も大事なのは「1.何を言ってもいい」です。哲学対話の場では、空気を読んで言いたいことをがまんするという気づかいは不要。また、議論やディベートではないので、結論を出す必要も他者を説得する必要もありません。それぞれが自分の頭の中に浮かんだ「なぜ?」を大切にして、深掘りしていきます。

また、「5.知識ではなく、自分の経験に即して話す」も大事なルール。「この間読んだ本に書いてあったんだけど〜」と、知識や情報についてではなく、「私が○○したときは〜」などと自分が経験したことを中心に語り合うことで、その人らしさが見えてきます。それぞれが異なる視点をもって話すからこそ、思考が深まっていくのです。

参加して得られた気づきとは?

私が実際に哲学対話に参加して実感したのは、次のようなことでした。

•固定概念に縛られて生活していることを痛感
  →自分にとっての「当たり前」は常識ではないことも多い
•ニュースなどで得た知識や情報を鵜呑みにしている
  →物事の本質を見ていない
•自分の経験に即して語り合うため、参加者の「個」が見えやすい
  →参加者との距離が縮まる
•様々な考え方に触れるため、物事を多面的に見られるようになる
  →他者の尊重につながる

それぞれが挙げる「なぜ?」から「個」を垣間見ることができるので参加者に親近感を感じ、コミュニケーションを取りやすくなります。また、安心して自由に発言できる場だからこそ様々な意見を聴くことができ、思考に広がりと深まりが出てくるのです。

イノベーションは「なぜ?」から始まる

先日、ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏(京都大学特別教授)が、科学者を目指す小中学生へ向けたコメントがニュースで紹介されていました。これが、哲学対話と大いに通じるところがあるように感じました。

「研究者になるにあたって大事なのは『知りたい』と思うこと、『不思議だな』と思う心を大切にすること、教科書に書いてあることを信じないこと、常に疑いを持って『本当はどうなっているのだろう』と。

自分の目で、ものを見る。そして納得する。そこまで諦めない」

「本当にそうなのか?」「なぜ、そうなのか?」と深掘りすることは、新しい発想やイノベーションを起こすことにつながります。例えば、会社の同僚や上司と哲学対話をしてみると、それぞれの「なぜ?」を共有でき、そこから今までにないアイデアが生まれるかもしれません。意見を発言しやすい雰囲気をつくったりチームワークを高めたりするうえでも、哲学対話は役立つはずです。

「哲学対話」を、職場の人たちと一緒にやってみてはいかがでしょうか。

 

参考

「東大教授の白熱講義120分  ズバリ解明 なぜ、あなたはすぐ不安になるか?」 PRESIDENT  2016.12.5,  p20-23.

「考える自由のない国-哲学対話を通して見える日本の課題」梶谷真司, 月刊事業構想, 2016年1月号.

「ネイチャー誌、サイエンス誌の9割は嘘」ノーベル賞の本庶佑氏は説く、常識を疑う大切さを. BuzzFeedNews. 2018.10.1

 

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