「ラゴム」という発想が生むスウェーデン人の時間の使い方

スウェーデン語で、自分にとって物事の具合がちょうど良いことを「ラゴム(Lagom)」といいます。スウェーデンで暮らす中で気が付いた、スウェーデン人の時間の使い方と、その背景にある価値観について紹介します。

北欧の国、スウェーデン

スウェーデンは、最近の北欧雑貨ブームのおかげで、日本での認知度も上がってきていると思います。イケア(IKEA)も、日本の店舗数がずいぶん増えました。他にも例えば、女性の社会進出が進んでいる、福祉が手厚いけど税金が高い、移民難民の受け入れが盛んなどなど、イメージはさまざまなのではないでしょうか。

私は初めてスウェーデンを訪れたとき、首都ストックホルムに滞在しました。短い期間でしたが、人々のふるまいや雰囲気がゆったりとしていて、どこか穏やかな時間が流れているような感じに魅了されました。そしてそのときの印象が忘れられず、大学院進学を機にスウェーデンにやってきました。

事実①お店の閉店時間事情

私が住んでいるのは、スウェーデンで4番目に大きい街、ウプサラというところです。大学都市として有名なところで、街中にはコンビニやデパートはもちろん、レストラン、カフェ、バーなどもたくさんあります。暮らしてみて最初に気が付いたのが、いろいろなお店の閉店時間の早さでした。

例えば、一般的な雑貨屋さんや本屋さんは6時には閉まります。街の大通りにあるスウェーデンのコーヒーチェーン店、エスプレッソハウス(espresso house)も、夜の7時には閉店です。代表的な食料品スーパーやコンビニも、夜8時以降に営業しているお店を見つけるのは難しいです。(車で郊外の大型店に出向けば話は別ですが。)そしてもちろん日曜日は、チェーン店を除くほとんどのお店がお休みです。

特にお酒に関しては厳しく、アルコール度数が5%を超えるものは、国営のシステムボラエット(systembolaget)というお店でしか購入することができません。このお店は営業時間に制限がある上に、日曜日にはお休みです。

さすがにバーは夜遅くまでやっています。スウェーデンでは、日本でいう「お酒のあとのラーメン」の感覚でハンバーガーを食べるので、スウェーデンのハンバーガーチェーン店マックスバーガー(MAX Burger)は、翌朝の5時まで営業している日もあります。しかし、これらはかなりの例外です。

お酒の購入も含めて、さまざまなお店の営業時間が限られている分、先のことを考え、計画的に暮らしを営む必要があることに、最初は驚かされたものです。コンビニなどのおかげで、24時間なんでも手に入れることができる日本とは対照的ですよね。この事実に最初は少し不便を感じました。

しかしある日の夜、お店が閉まって少し活気が減り、暗くなった街中を歩いていて気が付きました。お店が閉まるということは、店員さんたちが働かなくていいということ。つまりみんな、夜遅くまで働く代わりに、早く家に帰れているのです。それって、ちょっとしあわせなことかもしれないな、と。

事実②スウェーデンの手帳事情

スウェーデンにきて、もうひとつ驚いたのが、手帳の作りです。新年に向けて、せっかくなのでスウェーデン製の手帳を買いました。しかし自宅で改めて良く見てみて気が付いたのですが、夜7時以降、予定を書き込む欄が無いのです。笑

そして土日は、予定を書き込むことこそできますが、「週末なんだから、何時に何をするのかをかっちり書く必要はないでしょ?」とでも言わんばかりの作りです。手帳にまで反映された、スウェーデン人の時間に対する考え方に思わず笑ってしまいました。

そのときに思い出したのが、スウェーデン人の友達が手帳を見せてくれたときのことです。共同で取り組む課題の話し合いをしていたのですが、話のくだりで、さらっと「週末は勉強しちゃいけないからさ。」と言うのです。「週末は勉強しちゃいけないの?」と、思わず聞き返したのですが、「だって、週末はお休みでしょ?自分の時間を楽しまなきゃ。」ときっぱり言われ、ちょっとびっくり。課題に追われて、週末も机にかじりついていた私にとって、目からウロコの発言でした。

さらには授業中に、教授が「今週の課題のリーディングどうだった?」と生徒に感想を求めたときのこと。「今週は忙しかったから、全部のページを読む時間がなかった。」と、きっぱりと、特に悪びれずに言う生徒が毎週何人かいました。そして、特になにもとがめず、「学期末までには全部読んでね。」とだけ諭す教授の対応。それに対して生徒たちは、「それはもちろんそうするよ。」といった態度なのです。最初はなかなかびっくりしました。

ほどほどがちょうどいい、「ラゴム」の精神

これらの経験から感じたのが、スウェーデン人の「ラゴム」の精神です。「ラゴム」とは「ちょうど良い」こと。この「ラゴム」を大切に、仕事も勉強も、自分に無理のない範囲で時間管理をしながら進めていることが、まわりのスウェーデン人たちのふるまいから伝わってきました。日本にいたときは、どちらかというと、ちょっと無理してでも頑張った方がほめられることって多かった気がします。

スウェーデン人は、人生に対して、自分の生活の中にある様々なことをうまく調和させ、組み合わせる、ライフパズルという考え方を持っている人が多いそうです。きっと、パズルのピースのひとつひとつが「ラゴム」になるように、自分たちの都合も大切にしながら、毎日の時間をやりくりしているのだろうと思います。

スウェーデンの人たちの、自分にとって物事がちょうど良い具合であることを大切にして、休むときと頑張るときのメリハリをつけるライフスタイル。せっかくスウェーデンに来ているので、私も実践してみようと思います。

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