「違和感」はためらわず声に出そう! 「あれ?」という感覚がリスク軽減とイノベーションにつながる

最近「違和感」について、人から聞いたり本で読んだりする機会がありました。
・違和感を大切にする習慣をもつと、問題発見の質が上がる
・働きやすい職場づくりのカギは、違和感を覚えたら上下関係を問わず話せる関係を築くことにある
といったようなことです。

だれでも日常生活の中で「あれ?」「ん?」「なんとなくイヤな感じがする」など、言語化できないネガティブな感じを抱くことはありますよね。とはいえ、理由がわからないためそのまま放っておくことも多いのではないでしょうか。そして、のちに後悔する結果に……。

では、違和感を日々の仕事や生活に役立てるためには、どうしたらよいのでしょうか。
さまざまな視点から違和感について解説している、齋藤孝著『違和感のチカラ―最初の「あれ?」は案外正しい!』(角川書店、2009)を読んで、その答えを探ってみました。

どんな問題も些細なことが発端

同書によると、人には、自分にとって都合のよくない情報を過少評価したり無視したりすることで、不安な気持ちを抑え、心的バランスを保とうとする特性があるそうです。

ニュースで取り上げられる大企業の不祥事も、社員が違和感をもった時点で表に出していたら“ボヤ騒ぎ”で済んだかもしれません。「気づかなかったことにしよう。そうすれば面倒なことに巻き込まれずに済む」と、違和感を封印すると大問題に発展することもあります。

また、NHKが全国の振り込め詐欺被害者にアンケート調査したところ、3分の2の人が最初に「ちょっとおかしいな」と、不審に感じていたそうです。それをウヤムヤにしてしまうような巧妙な手口によって、相手の術中にはまってしまうのでしょう。

こうしてみると、違和感をもったときに対処していれば、多くのリスクを軽減できることがわかります。

「経験知」と「暗黙知」をフル活用して違和感と向き合う

違和感を感じるということは、言い換えると、自分のこれまでの経験知が「変だ」と警告している状態です。このとき、自分の経験と直面しているケースを照合して、向き合うべきものか排除してよいものかを判断する必要があります。

そこで重要となるのが、自分の中にストックされた経験知と暗黙知。暗黙知とは、これまでの人生経験で得た、意識化されない状態で潜在している事柄のことです。経験知と暗黙知の“データベース”が充実しているほど、判断する精度が高まるそう。

判断することについて齋藤氏が懸念しているのは、経験知や暗黙知のストックが十分ないのに、違和感をもったものをすぐに排除してしまうことです。

たとえば、上司の言い方に違和感があるという若い人は多い。「ああいうものの言い方をされるとカチンと来てやる気がなくなる」などと言う。しかし、それを入ってまだあまり年月の経っていない会社を辞める理由にするのはどうかと思う。

その上司に問題があるかどうかは、いろいろなタイプの他の上司と接してみて初めてわかること。自分に嫌な感じを与えるかどうかが基準なのではなくて、社会の論理とか仕組みといったことを自分のスタンダード、基準として受け入れてみて、内面化して、それと照らし合わせて上司のあり方、さらには自分がその会社で働くことの意味を考える。違和感はそうやって働かせていくべきものだ。

経験の絶対量が少ない人がすぐに白か黒か判断して、「排除する、やめる、やらない」という方向に進めてしまうと、経験知が増えていかないどころか、世界を狭めてしまうことになるとも述べています。

アイデアやイノベーションは違和感から

アイデアやイノベーションのほとんどは、「当たり前」と思っていたところに不都合を見いだすことを契機としています。「そんなものだから」と多くの人が意識していなかったことに、「これ、ちょっと不便じゃない?」と、違和感を掘り下げていくことで、新しいものが生みだされるのです。

たとえばペットボトルのお茶。かつて、お茶を売買するという感覚は世の中になかったはず。でも、だれかが「いちいち茶葉から淹れなくてもすぐ飲める、手軽に持ち運びできるお茶があったらいいな」という発想をもったことから、ペットボトルのお茶が商品化されたと考えられます。

違和感からアイデアが生まれることについて、齋藤氏はこう述べています。

何か新しいものをつくろうというときに、ただマーケティング的視点から、「たとえばこんな商品はどうでしょうか」と考えてしまうのは、そこに感覚が介在していない。そうではなくて、自分の感覚的なところから何かを引き出してくる。感覚を通して出てくるものは、世にフィットする。

違和感が“愛”に変わることも

齋藤氏は違和感について、「愛される違和感」というおもしろい視点からも解説しています。

その例として挙げていることのひとつが、サザンオールスターズの桑田佳祐氏の声。ボーカリストらしからぬ声で、そのうえ巻き舌で歌うので、1978年のデビュー当時は「何を歌っているのかわからない」と不評だったそうです。ところが、しだいにその感覚は「愛される違和感」となり、数々のヒット曲は世代を超えて聴き続けられています。

違和感とは、言い換えると「引っかかり」。そもそも引っかかりがないと、人の目に止まることはありません。人気商品などには、「えっ、これ何?」といった異質な感じを逆手に取っているものが少なくありません。その感覚に慣れてしまうと、むしろ“普通じゃない感じ”が魅力になってハマっていくのです。

違和感をノートに書きとめて深掘りする

感じた違和感を掘り下げる方法について齋藤氏は、ノートに書きとめたり人に話してみたりすることをすすめています。

たとえば違和感をもったら、「何が引っかかるのか?」「なぜ、あの人はこういうことを言うのか?」と深掘りしていき、その理由や根拠となるエピソードを列挙して、違和感の正体を明らかにしていきます。後で書きためたものを見返すと、自分がどんなことに違和感をもつ傾向があるのか見えてくるのだとか。

また、違和感をもったことについて人に話すと、その違和感が意識化されるだけでなく、ほかの人の考えを聞くこともできます。

おわりに

以上のことから、違和感は学びや気づきの宝庫で、そのまま放っておくのは非常にもったいないことがわかります。

また、違和感の表現には、
・胸騒ぎ
・腑に落ちない
・背筋がゾッとする
など、からだの感覚にかかわるものがたくさんあります。
自分のこころとからだを人や物事に対して開き、違和感を素直に受け入れる状態でいることが大事なのではないでしょうか。

 

参考

『違和感のチカラ―最初の「あれ?」は案外正しい! 』 齋藤孝、角川書店、2009.

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