メモを「備忘録」でおわらせず、価値あるものにするために

「この前ネットで見かけたあの記事、すごくおもしろかったんだけど、キーワードすら思い出せず見つけられない……」「あの本にヒントがありそうだけど、なんていうタイトルだっけ……」など、いざというときに必要な情報を引き出せず、モヤモヤすることがよくあります。

だからなるべく、「これは!」と感じたことはメモをするようにしているものの、手帳、ノート、スマホ、そのへんにあった紙切れといったようにいろんなところにメモしてしまい、終いにはどこに書いたか忘れてしまう始末です。

「メモ活用術」をテーマとする書籍やメモアプリなどのツールはたくさんあるので、すでに自分に合った方法を見つけている人も多いと思いますが、私のような、メモ活用術初心者も少なくないのでは?

そもそもメモにはどんな役割があり、どんな可能性を秘めているのでしょうか。
メモを単なる「備忘録」でおわらせず、もっと価値あるものにするための方法について調べてみました。

人は1日たてば、覚えたことの7割以上を忘れてしまう!

ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスが発見した「エビングハウスの忘却曲線」というものがあります。被験者に意味のない3つのアルファベットの羅列を覚えてもらい、それが忘れられていくスピードをグラフ化したものです。

この忘却曲線によると、人は20分後には42%、1時間後には56%、1日後には74%、というスピードで忘れていくというのです。

こんな話を聞いてしまったらますますメモしないわけにはいきませんが、問題はその方法です。

業務効率化が求められる昨今、会議や打ち合わせの場面では、ノートパソコンに記録することが当たり前になりつつあります。また、講演会などの会場でも、ノートパソコンやタブレットなどにメモしている人をよく見かけるようになりました。

たしかに、会議では終了後に議事録を作成するよりもその場で打ち込んだほうが、出席できなかった人ともすぐに情報共有できて効率的です。講演会でも、その場で打ち込んでテキストとして保存しておくと、整理したり仲間で共有したりしやすいという利点があります。

とはいえ、手書きメモ派もたくさんいるので、手書きメモにも魅力がいろいろあるはずです。

頭と手を連動させ、内容を整理しながら記録できる「手書きメモ」

今回、参考にした「メモ活用術」をテーマとする書籍や記事などではすべて、用途や状況によって手書きとデジタルを使い分けるのがベストだとしながらも、「メモは手書きのほうがいい」という考えでした。

人は「手」で考える。だからメモは必ず手書きで

新しい教育スタイルを提唱する教育学者の齋藤孝氏は、著書『思考を鍛えるメモ力』の中で、「人は『手』で考える。メモは必ず手書きで」と述べています。スマホやパソコンに文字を入力するときも手を使いますが、「手で紙に文字を書いて自分の考えと一体化させていくほうが、身体性という意味ではより直接的に表現できる気がする」からだそうです。

手書きだと好きな方法でさっと書けて、クリエイティビティの活性化にも効果的

数々の名作CMやヒット商品を生み出してきた、クリエイティブ・ディレクターの小西利行氏も手書きメモ派。著書『仕事のスピード・質が劇的に上がる すごいメモ。』では、いつもおきまりのメモ帳を持ち歩き、手書きでメモするスタイルを20年以上続けていると述べています。いつでもどこでもメモ帳を取り出して、自分の好きな方法で書くことができ、使いやすい方法で情報を取り出せるので、アイデアを生み出すときにも大きな力を発揮するそうです。

手書きのほうが早く、矢印や図なども書き込める

商品開発コンサルタントで、整理術をテーマとした著者をもつ美崎栄一郎氏は、インタビュー「結果を出す人はノートに何を書いているのか? アイデアマンが「手書き」にこだわる深い理由。」の中で、スピードを重視して「手書きメモ」にこだわり、「デジタルメモ」の場合も手書き入力していると述べています。自分の気づきを記録したり人から聞いた話の要点をまとめたりするには手書きメモのほうが圧倒的に早く、そのうえ矢印や図なども書き込めるのがその理由です。

さらに、「手書きメモ」の有意性を示す実験結果もあります(「なぜ、手書きのメモはノートPCに勝るのか」を参照)。

アメリカの大学で、学生たちにTEDの講演映像を何本か視聴してもらい、「手書きメモ」とパソコンに打ち込む「デジタルメモ」の好きな方法でメモを取ってもらいました。その後、講演内容について「事実関係を思い出させる質問」と、「概念の理解度を試す質問」に回答してもらったところ、概念理解に関する質問では、手書きメモのグループのほうが高得点を取りました(事実関係のテストでは有意差なし)。その理由は、パソコンに文字を打ち込むと、何も考えないまま逐語的に入力する傾向が強くなるからです。

以上のことから、内容をそのまま記録するのなら「デジタルメモ」が、自分の頭の中を整理したり理解を深めたりすることを重視するなら「手書きメモ」がよさそうです。

「デジタルメモ」でしかできないことがある

ここまで、「手書きメモ」のいいところばかり紹介してきましたが、「デジタルメモ」だからこそできることもあります。それは、「検索」です。

先に紹介した小西氏は手書きメモ派ですが、検索できるというメリットから「デジタルメモ」も併用いろんなツールなどを試した結果、メモアプリのEvernote(エバーノート)とGoogleドライブを活用するスタイルに行き着いたそうです。

小西氏が「デジタルメモ」でこだわっているのが、タイトルのつけ方。後々にメモを使う“未来の自分”が、そのメモに出合いやすくするようにひと手間かけるのです。

たとえば、東京の天王洲地域の再開発に向けた提案書を作成する際に書いたメモだったら、

「天王洲再開発プロジェクト」

といったタイトルはつけず、

「天王洲」「再開発」「イベント」「都市計画」「アイデア」「重要」「20130127」

と、自分が検索すると予想されるワードを盛り込み、出合いの確率を高めます。

さらに「タグ付け」することで、もっと見つけやすくなります。小西氏は、次の5つのタグで分類しています。タグ付けのポイントは、大雑把にすること。細かく分類しすぎると、逆に探しにくくなるからです。

【重要】→とにかく大切だぞと思ったら
【流行】→世の中の流行りについて
【ビジネス】→ビジネスのトレンド情報について
【アイデア】→いいアイデアだと思ったら
【本】→本や雑誌原稿のネタになると思ったら

自分のメモ帳やノートを「価値ある一冊」にするには?

私はこれまで、アンテナに引っかかった事柄やキーワード、気になる本のタイトル、講演会などの内容、インタビュー・取材で得た情報をメモしていました。これはこれで、記録としての役割は果たしますが、もっと価値あるメモに進化させたいところです。

そのためには、どうしたらいいのでしょうか。

齋藤氏は、話を聞いた相手の言葉などに加えて、自分の意見・感想・疑問を緑色のペンで書くことをすすめています。こうすれば、内容そのものを記録するメモから、自分自身の考えを深めるメモへと変わります。色ペンで書くと見返したときにパッと目につき、そこだけ読んで活用することもできます。

美崎氏は、他人の知恵や知識をメモするのではなく、自分の知恵や知識、日々の経験から生まれる「気づき」をメモすることをすすめています。つまり、メモ帳やノートに書く言葉はすべて、自分自身が生み出したものになるということです。

美崎氏は先に紹介したインタビューの中で、こう話しています。

本であれば、いくらでも捨てていい。また必要になれば、あとから買い直すこともできますからね。でも、自分が書いたノートは一度捨てると二度と手に入れることはできません。そこには、あなたの価値につながる経験が記されている。そんな大事なものを手放すことほどもったいないことはありませんよ。

おわりに

今回いろいろ調べた結果、メモ活用術初心者なりに、手帳、ノート2冊、メモアプリを使って、次の方法で試してみることにしました。

【手帳】スケジュールを。
【ノートA】アンテナに引っかかったこと、気づき、ひらめき、アイデアを。※自分の意見・感想・疑問を緑色のペンで。
【ノートB】会議や講演会、取材などで人から聞いた話の記録を。※自分の意見・感想・疑問を緑色のペンで。
【Evernote】To Doリスト、アンテナに引っかかったこと、気づき、ひらめき、アイデアを。画像やWebページなど、入れられるものはなんでもここに。※検索しやすいようにタイトルを工夫。

メモの取り方や活用方法は人それぞれ。その人の職業、ライフスタイルや性格によって、しっくりくるものとそうでないものがあると思います。ですが、どんなにデジタル化が進んでも、「手書きメモ」がなくなることはなさそうですね。

 

参考

『思考を鍛えるメモ力』齋藤孝、筑摩書房、2018.

『仕事のスピード・質が劇的に上がる すごいメモ。』小西利行、かんき出版 2016.

結果を出す人はノートに何を書いているのか? アイデアマンが「手書き」にこだわる深い理由。2019.1.10

なぜ、手書きのメモはノートPCに勝るのか HBR.ORG翻訳マネジメント記事 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2015.11.5

 

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